非破壊検査はコスト削減に繋がる?費用対効果を3つの視点で解説

「建物の調査や検査」と聞くと、「費用がかかる」「特に問題が起きていないのに必要なのか?」といった、コスト面での懸念を持つ方も少なくないかもしれません。

確かに、検査には一定の費用が発生します。しかし、その費用を単なる「出費」と捉えるか、未来の損失を防ぐための「投資」と捉えるかで、建物の将来は大きく変わってきます。

結論から言えば、適切な非破壊検査は、将来的に発生しうる莫大なコストを削減するための、非常に有効な「投資」です。

建物の内部は、外から見ただけでは分かりません。図面通りに鉄筋が配置されているか、コンクリートの劣化が静かに進行していないか、壁の向こう側に重要な配管が隠れていないか。これら見えない部分の問題を放置することが、後に「手戻り工事」や「大規模な補修」といった形で、当初の検査費用とは比較にならないほどの大きなコストとなって跳ね返ってくるのです。

この記事では、なぜ「非破壊検査がコスト削減に繋がる」と言えるのか、その費用対効果について、以下の3つの視点から具体的に解説していきます。

  1. 手戻り工事の防止によるコスト削減
  2. 大規模な補修を未然に防ぐ「予防保全」コストの削減
  3. 建物の長寿命化によるライフサイクルコストの削減

非破壊検査がもたらす最も直接的で分かりやすいコスト削減効果は、「手戻り工事の防止」です。

「手戻り(てもどり)」とは、施工ミスや予期せぬ障害物の発見などにより、作業を中断し、前の工程に戻ってやり直すことです。この手戻りこそが、コストを肥大化させる最大の要因の一つです。

具体例1:改修工事における埋設物の切断

リフォームや設備の更新工事で、壁や床に穴を開ける「コア穿孔(せんこう)」や「アンカー打設」は頻繁に行われます。

もし、事前の調査を怠り、「図面では大丈夫だろう」という憶測で作業を進め、内部の鉄筋や電気配線、水道管などを切断・損傷させてしまったらどうなるでしょうか。

発生するコスト
  • 切断した鉄筋の補修費用(構造耐力に関わる専門的な補修)
  • 損傷した配管・配線の修復費用
  • 工事の即時中断と、復旧作業のための工期遅延
  • 遅延に伴う追加の人件費、機材のリース延長費用
  • (テナントビルや工場の場合)営業停止・操業停止の補償

これらの費用は、本来予定していた工事費を遥かに上回る可能性があります。

【非破壊検査の役割】

ここで活躍するのが、エックス線探査(レントゲン調査)や鉄筋探査(電磁誘導法、レーダー法)です。これらの検査で「内部がどうなっているか」を正確に把握し、埋設物を回避して作業すれば、数万円から数十万円の検査費用(投資)で、数百万円にもなりかねない手戻りコスト(リスク)を確実に回避できるのです。

具体例2:耐震補強工事における図面と現状の不一致

耐震補強工事や大規模改修では、既存建物の「現在の強度」を正確に知ることが設計の前提となります。しかし、建設当時の図面と現状が異なるケースは珍しくありません。

  • 図面で「D13(直径13mm)」の鉄筋が、実際は「D10(直径10mm)」だった。
  • 鉄筋の間隔が、図面より広かった。

もし、この「不一致」に気づかないまま図面ベースで設計し、工事に着手してしまったら。「図面と違う!このままでは設計通りの強度が出ない」という事態に陥ります。

発生するコスト
  • 補強設計のやり直し(再計算、設計変更)
  • 発注済みだった補強部材の仕様変更・再発注コスト
  • 工事の中断と、工期の大幅な遅延

【非破壊検査の役割】

工事着手前に、鉄筋探査で実際の配筋状況を、コンクリート強度試験で現状の強度を測定しておくことが重要です。これらの「実測値」に基づいて設計を行うことで、設計ミスや現場での想定外の事態を防ぎ、手戻りのないスムーズな工事進行が可能となります。


次に、中長期的な視点でのコスト削減、すなわち「予防保全(よぼうほぜん)」のメリットについて解説します。

建物の管理方法には、問題が発生してから直す「事後保全」と、問題が発生する前に計画的に補修する「予防保全」があります。

一見、「壊れていないのに費用をかけるのは無駄だ」と感じるかもしれません。しかし、建物においては、事後保全は予防保全に比べて、最終的なトータルコストが格段に高くなることが知られています。

国土交通省の試算によれば、インフラ管理において予防保全型へ転換した場合、今後50年間のトータルコスト(維持管理・更新費)が約5割も縮減されるとのデータもあります。
(出典:国土交通省「インフラ長寿命化基本計画(概要)」など)

https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001478603.pdf

具体例1:コンクリート内部の劣化(中性化・塩害)

コンクリート内部の鉄筋は、中性化や塩害によって錆びることがあります。

事後保全の場合

錆びた鉄筋が膨張し、コンクリートが「爆裂」して剥がれ落ちてから対応します。

コスト:高額な「断面修復工事」(劣化した部分を大きく削り取り、鉄筋の錆を落とし、埋め戻す)が必要になります。

予防保全の場合

非破壊検査(中性化試験や塩化物イオン濃度測定)で劣化の兆候を早期に掴みます。

コスト:鉄筋が錆びる前に発見できれば、「表面保護工法」(塗装やコーティング)など、格段に安価な対策で劣化の進行を食い止められます。

具体例2:外壁タイルの浮き・剥離

外壁タイルは、経年劣化により下地から「浮いて」くることがあります。

  • 事後保全の場合
    「浮き」を放置した結果、タイルが剥がれ落ちます。もし通行人に当たれば、重大な人身事故に繋がります。
  • コスト:被害者への損害賠償、緊急の応急処置、行政からの是正命令、社会的信用の失墜、緊急の全面改修工事など、莫大な費用とリスクが発生します。
  • 予防保全の場合
    計画的に外壁調査を行います。赤外線サーモグラフィ調査(非破壊検査)で、足場を組まずに「浮き」の疑いがある箇所を広範囲に把握できます。
  • コスト:「浮いている」と診断された箇所だけを計画的に補修(アンカーピンニング工法など)することで、事故を未然に防ぎ、コストとリスクを最小限に抑えられます。

このように、非破壊検査を活用した予防保全は、建物調査の費用対効果として極めて高いと言えます。

最後の視点は、最も長期的かつ包括的な「ライフサイクルコスト(LCC)」の削減です。

ライフサイクルコスト(LCC)とは、建物の生涯にかかる総費用(企画・設計費 + 建設費 + 運用管理・保全修繕費 + 解体・廃棄費)のことです。

非破壊検査は、このLCCのうち、特に大きな割合を占める「運用管理・保全修繕費」を最適化することに貢献します。

  • 視点1(手戻り防止) → 「建設費」の予期せぬ増大を防ぐ。
  • 視点2(予防保全) → 「保全・修繕費」を平準化し、最小化する。

これらを実現した結果として得られる最大のメリットが「建物の長寿命化」です。適切な時期に非破壊検査を行い、計画的な修繕(予防保全)を繰り返すことで、建物の劣化を抑制し、長く使い続けることが可能になります。

もし予防保全を怠り、劣化が著しく進めば「建て替え」しか選択肢がなくなります。建て替えには、解体費用と新築費用という莫大なコストが発生します。

非破壊検査による予防保全を徹底し、建物の寿命を延ばすことができれば、この莫大な「建て替えコスト」の発生を先送りできることになり、これはLCCの観点から計り知れない経済的メリットです。

また、適切にメンテナンスされている建物は「資産価値」も高く維持されます。非破壊検査に基づく正確な「健康診断書(調査報告書)」がある建物は、売買や賃貸の際にも信頼が高く、有利な条件での取引が期待できます。

とはいえ、「とにかく検査すれば良い」というものでもありません。費用対効果を最大化するには、ポイントを押さえた計画が必要です。

目的を明確にする

まず、「何のために」検査するのかを明確にします。

  • 改修工事のため(例:鉄筋・配管の位置特定)
  • 耐震診断のため(例:図面との差異、現在の強度把握)
  • 予防保全のため(例:劣化状況の把握)

目的が明確になれば、採用すべき検査方法、調査範囲が自ずと決まり、過不足のない(=費用対効果の高い)検査計画が立てられます。

優先順位をつける

建物全体を一度に完璧に調査しようとすると、膨大な費用がかかります。部位ごとの重要度、劣化の進行度、そして「もし問題が起きた場合」の社会的影響度(例:外壁タイルなど)を考慮し、調査の優先順位をつけることが賢明です。

信頼できる専門家に相談する

最も重要なのが、信頼できる専門家に相談することです。非破壊検査には多種多様な技術があり、それぞれに得意・不得意があります。建物の状況や目的に応じて、どの技術を組み合わせるのが最適かを判断するには、高度な専門知識と豊富な経験が必要です。

今回は、非破壊検査がもたらす費用対効果について、「手戻り工事の防止」「予防保全」「ライフサイクルコスト(LCC)の削減」という3つの視点から解説しました。

非破壊検査にかかる費用は、決して単なる「出費」ではありません。

それは、将来発生しうる予期せぬ手戻りコストや、高額な大規模修繕コストを回避し、建物の資産価値を長期にわたって維持するための、極めて合理的な「未来への投資」です。

株式会社HOLTECHは、お客様が「何に困っているのか」「何のために調査が必要なのか」を深く理解し、その建物の将来を見据えた「トータルコストの削減」という視点に立って、最適な調査計画をご提案します。

さらに、HOLTECHは非破壊検査だけでなく、調査結果に基づくコア穿孔やアンカー打設工事、引張試験までを一貫して手掛けております。調査から実際の施工までをワンストップで対応できるため、情報の伝達ミスや手戻りを防ぎ、よりスムーズで確実な工事(=コスト削減)を実現できることも、私たちの強みです。

「改修工事を予定しているが、内部の状況が不安だ」

「建物の劣化が進んでいる気がするが、どこから手を付ければいいか分からない」

もし、そのようなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、株式会社HOLTECHにご相談ください。

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