耐震診断・補強工事の前に必須!「現況調査」の項目と流れを徹底解説

耐震診断・補強工事の前に必須!「現況調査」の項目と流れを徹底解説

地震大国である日本において、建物の耐震性確保は常に最重要課題の一つです。特に、旧耐震基準(1981年以前)で建てられた「既存不適格建築物」などを中心に、「耐震診断」を行い、必要に応じて「耐震補強工事」を実施する動きが活発化しています。

しかし、この耐震診断や補強計画の精度そのものを左右する、極めて重要な工程があることをご存知でしょうか。それが、「現況調査(事前調査)」です。

どれだけ高度な構造計算を行っても、その計算の基礎となる建物の情報が不正確であれば、診断結果の信頼性は大きく揺らいでしまいます。

この記事では、非破壊検査の専門家が、精度の高い耐震計画の第一歩となる「現況調査」について、その重要性から具体的な調査項目、全体の流れまでを徹底的に解説します。

「建設当時の設計図書(図面や仕様書)があれば、耐震診断はできるのでは?」

このように思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現実はそう単純ではありません。現況調査が不可欠である最大の理由は、「設計図書と実際の建物の状態は、必ずしも一致しない」という事実にあります。

1. 経年による劣化の進行

建物は、竣工した瞬間から雨風や地震、日射などの影響を受け、少しずつ劣化が進行します。

  • コンクリートの中性化
  • ひび割れ(クラック)の発生
  • 内部鉄筋の腐食
    これらの劣化は、部材の強度や耐久性を当初の想定よりも低下させます。

2. 施工時の誤差や仕様変更

建設当時に、図面通りに施工されなかったり、現場の判断で一部の仕様が変更されたりしている可能性もゼロではありません。例えば、鉄筋のかぶり厚さ(コンクリート表面から鉄筋までの距離)や、実際に使用されたコンクリートの強度が、設計値と異なっているケースもあります。

3. 増改築による変更

数十年の間に、間取りの変更、設備の追加、一部の増築などが行われ、建物の重量や構造バランスが当初の設計から変わってしまっていることも少なくありません。

これらの「図面と現実のギャップ」を把握せず、設計図書の情報だけで耐震診断を行うことは、「机上の空論」に過ぎません。建物の「今現在の本当の姿」を正確に把握し、そのデータに基づいて診断を行うために、現況調査は絶対に欠かせない工程なのです。

現況調査は、大きく分けて2つのステップで進められます。

ステップ1:予備調査(書類調査)

現地での調査に先立ち、まずは関連書類を収集・精査します。これは、建物の「戸籍」を調べるような作業です。

主な調査書類
  • 設計図書(意匠図、構造図): 建物の形状、部材の寸法、仕様などを確認します。
  • 構造計算書: どのような考え方で構造設計がなされたかを確認します。
  • 工事記録、増改築の記録: 施工状況や後年の変更履歴を把握します。

この予備調査によって、建物の基本的な情報を理解し、次の「現地調査」で何を重点的に、どの箇所で調べるべきかという調査計画を立案します。書類が不足している場合は、現地調査の比重がより高くなります。

ステップ2:現地調査(実地調査)

予備調査で得た情報をもとに、実際に現地で建物の状態を詳細に調査します。この現地調査によって、経年劣化の状況や図面との相違点など、建物の「現在の性能」を具体的に数値化・データ化していきます。

現地調査では、構造物の耐震性能を評価するために、多岐にわたる項目を調べます。ここでは、特に重要な調査項目をいくつかご紹介します。

1. コンクリート強度の確認

構造体の基本となるコンクリートが、設計通りの強度を維持しているかを確認します。

  • リバウンドハンマー(シュミットハンマー)法:ハンマーによる反発度から強度を推定する非破壊試験です。広範囲の強度を比較的容易に測定できます。
  • コア抜き圧縮強度試験:構造体からコンクリートの円柱供試体(コア)を採取し、試験室で実際に圧力をかけて破壊強度を測定します。部分的に破壊を伴いますが、最も信頼性の高いデータが得られます。

2. 鉄筋径・配筋状況の確認

地震力に抵抗する上で最も重要な部材である鉄筋が、設計図通りに配置されているかを確認します。

  • 鉄筋探査(電磁波レーダ法など): 非破壊でコンクリート内部の鉄筋の位置、かぶり厚さ、鉄筋径などを推定します。
  • はつり調査:部分的にコンクリートを削り取り、鉄筋を直接目視で確認し、種類や直径、腐食状態などを調査します。

3. 劣化状況の調査

建物の耐久性に直接影響する劣化の進行度合いを調査します。

  • ひび割れ調査:ひび割れの幅、長さ、深さ、パターンを記録し、構造的な問題に起因するものか、乾燥収縮などによるものかを判断します。
  • 中性化深さ試験:コンクリートに小さな穴を開けるか、採取したコアにフェノールフタレイン溶液を噴霧し、アルカリ性が失われた「中性化」の深さを測定します。これにより、鉄筋の腐食リスクを評価します。

これらの調査を組み合わせ、建物の現状を立体的に把握していきます。

上記の現地調査項目を見てわかるように、現在の現況調査では「非破壊検査」の技術が広く活用されています。

非破壊検査とは、その名の通り「建物を壊すことなく、内部の状態を調べる技術」です。もし、すべての調査を「コア抜き」や「はつり」といった破壊的な手法で行うと、建物へのダメージが大きくなり、調査コストも時間も膨大になってしまいます。

そこで、非破壊検査を効果的に活用します。

  • 広範囲のスクリーニング:まずはリバウンドハンマー電磁波レーダを用いて、建物の広い範囲を効率的に調査し、全体の傾向を把握します。
  • 問題箇所の特定:非破壊検査で強度不足や配筋の乱れが疑われる「ウィークポイント」を特定します。
  • 詳細な確認:特定されたウィークポイントについてのみ、必要最小限の「コア抜き」や「はつり調査」を行い、詳細で正確なデータを取得します。

このように、非破壊検査と部分的な破壊検査を組み合わせることで、建物への負担を最小限に抑えながら、コスト効率よく、精度の高い調査を実現できるのです。

今回は、耐震診断・補強工事に先立つ「現況調査」の重要性と、その具体的な流れや項目について解説しました。

まとめ
  • 現況調査は、設計図書と現実の建物のギャップを埋めるために不可欠。
  • 調査は「予備調査(書類調査)」と「現地調査」の2段階で進められる。
  • 現地調査では、コンクリート強度、配筋、劣化状況などを多角的に調べる。
  • 非破壊検査の活用が、低コスト・高精度な調査の鍵となる。

正確な現状把握なくして、的確な耐震診断や効果的な補強計画はあり得ません。現況調査は、いわば建物の将来を守るための「精密な健康診断」です。

株式会社HOLTECHは、電磁波レーダ法による鉄筋探査や各種強度試験など、非破壊検査のエキスパートとして、お客様の建物の状態を正確に把握するためのお手伝いをしています。確かな技術力で取得した客観的なデータ(根拠)をご提供し、その後の耐震診断や補強計画が最良のものとなるよう、全力でサポートいたします。

建物の耐震性に少しでもご不安があれば、まずはその第一歩である「現況調査」からご検討ください。どうぞお気軽に当社までご相談ください。

https://holtech.jp/contact/

お問い合わせ

お見積もりやご相談などございまいしたら
お気軽にお問い合わせください。

メール・お電話でのお問い合わせはこちら

受付時間 : 土・日・祝日を除く 10:00〜18:00