
はじめに:社会インフラの老朽化と定期点検の重要性
日本の道路や橋、トンネルの多くは建設から50年以上が経過し、「インフラの高齢化」が深刻な社会問題となっています。
これまでは「壊れたら直す」のが一般的でしたが、それでは大事故に繋がりかねません。そこで今は、「壊れる前に劣化を見つけ、早めに対策する(予防保全)」という考え方が国の基本方針となっています。
この「早期発見」の鍵を握るのが、質の高い定期点検です。しかし、本当に危険な劣化は、人の目には見えないコンクリートの内部で静かに進行しています。
この記事では、インフラ点検をご担当する皆様へ、この目に見えない内部の損傷を建物を壊さずに見つけ出す『非破壊検査』について、専門家が分かりやすく解説します。
橋梁点検で用いられる非破壊検査技術
橋梁は、常に風雨や紫外線、塩分(沿岸部や凍結防止剤)、そして通行車両の荷重といった過酷な環境に晒されています。そのため、コンクリートのひび割れや剥離、内部鉄筋の腐食など、様々な劣化が複合的に進行しやすい構造物です。
国土交通省が定める定期点検要領では、5年に1度の頻度で、近接目視を基本とした点検が義務付けられていますが、より詳細な状態を把握し、適切な対策を講じるためには各種の非破壊検査が活用されます。
ひび割れ・剥離・空洞調査
打音検査
点検ハンマーでコンクリート表面を叩き、その音の違いで内部の浮きや剥離を検知する最も基本的な手法です。健全部は硬質な高い音がしますが、浮きや剥離がある部分は、詰まったような低い音(濁音)がします。
赤外線サーモグラフィ法
コンクリート表面の温度分布を赤外線カメラで可視化する技術です。内部に浮きや剥離があると、健全部との間に熱伝導率の低い空気層ができるため、日射などによって健全部より表面温度が高くなります。この温度差を捉えることで、広範囲の剥離箇所を効率的にスクリーニングできます。特に、橋脚や橋桁など、高所での調査に有効です。
電磁波レーダー法
コンクリート内部に向けて電磁波を放射し、その反射波から内部の状態を探査します。コンクリートと空洞の境界で電磁波は強く反射されるため、鉄筋のかぶり厚調査だけでなく、床版内部の空洞や剥離箇所の検出にも威力を発揮します。
鉄筋の腐食度調査
コンクリートの中性化や塩害によって鉄筋が腐食すると、体積が膨張し、コンクリートにひび割れや剥落(爆裂)を引き起こします。これが構造物の耐荷力を著しく低下させるため、鉄筋の腐食状況を把握することは極めて重要です。
自然電位法
コンクリート表面の電位を測定することで、内部鉄筋の腐食の可能性を評価する手法です。腐食が進行している箇所は、電位が低くなる(卑になる)傾向があるため、腐食が疑われる範囲を特定できます。
分極抵抗法
コンクリート表面から鉄筋に微弱な電流を流し、その応答から鉄筋の腐食速度を定量的に評価する手法です。自然電位法で特定した箇所の、より詳細な診断に用いられます。
これらの調査結果を組み合わせることで、「どの範囲に、どの程度の深刻度で劣化が進行しているのか」を客観的に評価し、的確な補修計画へと繋げることができます。
トンネル点検で用いられる非破壊検査技術
山岳地帯が多い日本では、トンネルもまた極めて重要なインフラです。トンネルは地圧や地下水の影響を常に受けており、特に内壁を構成する「覆工(ふっこう)コンクリート」の健全性が、トンネル全体の安定性と利用者の安全に直結します。
覆工コンクリートの健全性評価
空洞調査(電磁波レーダー法)
トンネルの安全性における最大のリスクの一つが、覆工コンクリートの背面に存在する「空洞」です。施工時の充填不良や、その後の地盤の変化によって生じるこの空洞は、コンクリートの剥落や崩落の直接的な原因となり得ます。
電磁波レーダー探査は、この背面空洞の調査に最も有効な手法の一つです。探査機をトンネル内壁に走査させることで、覆工コンクリートの厚さと、その背面に潜む空洞の有無、規模、位置を非破壊で正確にマッピングします。
HOLTECHの技術
私たち株式会社HOLTECHは、この電磁波レーダー探査を得意分野としています。豊富な実績と高度な解析技術により、トンネル覆工コンクリートの内部や背面に潜むリスクを的確に捉え、詳細なデータとしてご提供します。
剥離・浮き調査(打音・赤外線法)
橋梁と同様に、打音検査や赤外線サーモグラフィ法を用いて、覆工コンクリートの浮きや剥離を調査します。特に、車両の通行を規制しながら広範囲を調査する必要があるトンネル点検において、非接触でスクリーニングできる赤外線法は非常に効率的です。
強度・中性化調査(コアボーリング)
覆工コンクリート自体の健全性を評価するために、構造的に影響の少ない箇所からコンクリート片(コア)を採取し、圧縮強度試験や中性化深さ試験を実施します。これにより、コンクリートが設計通りの品質を維持しているか、鉄筋が腐食しやすい状態になっていないかを直接的に評価できます。
ドローンやAIを活用した最新の点検アプローチ
近年、インフラ点検の分野でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進んでいます。特に、ドローン(UAV)やAI(人工知能)の活用は、点検の効率と精度を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。
ドローンによる点検の革新
従来、橋脚や橋梁の下面、桁の側面、トンネルのアーチ頂部といった高所や危険箇所の点検には、高所作業車や特殊な足場の設置が不可欠で、多大なコストと時間を要しました。ドローンはこれらの課題を解決します。
高解像度カメラ
人間の目では届かない場所の近接撮影が可能。詳細な画像からひび割れなどの変状を把握します。
赤外線カメラ
ドローンに赤外線カメラを搭載することで、高所の壁面などの剥離・浮き調査を安全かつ効率的に実施できます。
レーザースキャナー(LiDAR)
構造物全体の3次元点群データを取得し、詳細な3Dモデルを構築。経年変化の把握や設計図との照合に活用されます。
AIによる画像解析の自動化
ドローンなどで撮影された膨大な量の画像データから、ひび割れの位置、幅、長さをAIが自動で検出・解析する技術が実用化されています。
効率化と客観性
技術者の目視による判定作業を大幅に削減し、判定基準のばらつきをなくすことで、客観的で均質な点検品質を確保します。
見落とし防止
AIが網羅的にチェックすることで、人間では見落としがちな微細な変状の発見にも貢献します。
ただし、これらの新技術は万能ではありません。最終的な診断や、内部劣化の評価には、電磁波レーダーやコア抜きといった、物理的なデータを得るための「地上での非破壊検査」が不可欠です。最新技術と従来の確かな技術を適切に組み合わせることが、次世代のインフラ維持管理の鍵となります。
まとめ:HOLTECHは次世代のインフラ維持管理をサポートします
安全なインフラを未来に残すためには、これまでの「壊れたら直す」という方法では限界があります。これからは、「壊れる前に状態を正確に把握し、計画的にメンテナンスする」ことが不可欠です。
非破壊検査は、その計画の土台となる、いわばインフラの「健康診断カルテ」を作成する重要な技術です。
私たち株式会社HOLTECHは、コンクリート内部を調べる電磁波レーダー探査などを得意とする非破壊検査のプロフェッショナルです。豊富な経験と高い技術力で、お客様のインフラの「今」を正確に診断し、長持ちさせるお手伝いをします。
また、ドローンなどの最新技術も取り入れ、お客様にとって最適な調査プランをご提案します。
「どの調査をすべきか分からない」「点検計画の立て方に困っている」など、橋やトンネルの維持管理でお困りの際は、ぜひ一度私たちにご相談ください。確かな技術で、社会の安全と皆様の課題解決をサポートします。